PSM(Price Sensitivity Measurement)の真実

PSM分析は、特定商品や商品カテゴリーに対する消費者の価格意識、特に、許容範囲を捉えることで、ターゲットに受容される価格を明らかにする分析手法です。現在では、最もポピュラーな価格分析手法として調査会社やコンサルティング会社で使用されています。しかし、ほとんどの企業・団体・個人がPSM分析の意味すること・分析の限界・補足しなくてはならない情報を知らずに使用しているのが実情です。本文では、私の実業(=コンサルティング)に影響の無い範囲となりますが、PSMの真実をお伝えします。

1.PSMの歴史

価格調査・分析の歴史をさかのぼると、1950年代のフランスでPSMの原型と言われる考え方が生まれました。そして1970年代、PSM(Price Sensitivity Meter)が提唱されました。しかし、時点でのPSMは経験則から生まれたものであり、理論的に導かれたものではなかったのです。

1

図表1 Price Sensitivity Meterは経験則から生まれた

1980年代にはPSMが米国でも取りあげられるようになりました。この時米国においてPrice Sensitivity Measurementと表記されるようになったのです。このような歴史をもつPSMは、価格設定のための調査を行う際にその分析の容易さからよく用いられており、内外を問わず多くの調査会社やコンサルティング会社のメニューにも用意されています。しかし、分析は4つの交点を算出するという部分に絞られているケースが多いのです。

2

図表2 PSMの標準的分析視点-4つの交点

2.PSMの基本

価格は品質などの商品価値と関連付けられて意識されることが多い。高価格だと受容されないだけでなく、低価格になりすぎると品質に問題があると意識され拒否される可能性があります。ただし、その価格の目安は人により異なり、同じ価格でも高すぎると感じる人と安いと感じる人がいます。そこで、この人数の割合を比較することで、最も支持されやすい価格のほか、どの範囲の価格であれば受け入れられるかを明らかにできます。  PSM分析を行うには、4つの質問を行い、その結果から4本の折れ線グラフを描き、それらの交点から価格レンジを算出します。

3

図表3 PSMの価格レンジ

そして、対象となる商品の価格について次のような4つの質問をします。

  1. あなたは、この商品が幾らくらいから『高すぎて買えない』と感じ始めますか(数量回答)
  2. あなたは、この商品が幾らくらいから『高い』と感じ始めますか(数量回答)
  3. あなたは、この商品が幾らくらいから『安い』と感じ始めますか(数量回答)
  4. あなたは、この商品が幾らくらいから『安すぎて品質に問題があるのではないか』と感じ始めますか(数量回答)

この4つの回答は、「1」が最も高い金額となり、順に安い金額または同じ金額となります。また、標準小売価格ではなく、店頭などでの実売価格で回答できるように設定します。上記「1」と「2」の回答を金額順に累積集計し折れ線グラフとします。0%から100%への折れ線となります。そして「3」と「4」の回答を金額の逆順に累積集計し折れ線グラフにして重ねます。100%から0%への折れ線となります。その上で、描かれた4本の線の交点(金額)を求めます。この交点の金額は、次のように解釈されます。

4

図表4 各交点とレンジの説明

5図表5 各設問とPSMグラフ

3.交点の意味

それぞれの交点で得られる価格がなぜ意味をもつのか。高すぎて買えない価格と安すぎて品質が不安な価格の交点がなぜ理想価格といえるのか、多くの人が持つ疑問ではないでしょうか。それでは、交点の意味を説明します。PSM分析での4つの質問は、5段階評価の質問の回答に置き換えることができます。例えば、ある商品の600円という価格について、SA(シングルアンサー)で下記質問内から選択して頂きます。

(1)高すぎて買えない

(2)高いと感じる

(3)どちらとも言えない

(4)安いと感じる

(5)安すぎて品質に問題があるのではないかと感じる

つまり、すべての価格について、4つの価格質問を境界線にして、5つの選択肢に回答者を分類できます。それを、価格別にグラフにしたものが下の帯グラフです。

6.2

図表6 交点の意味を説明するための帯グラフ

まず、最低品質保証価格とは、「安くすぎて買わない」人の割合が多くなりすぎる価格の直前価格です。しかしながら、どの程度の割合を基準にすべきでしょうか。50%の人が高すぎるという基準でも良いのですが、これでは、拒否者があまりに多すぎるように思います。そこで、対極の高いとする人の割合と比較します。具体的には、安すぎて品質に問題があるのではないかと感じる人に対して、高いと言う人が上まわれば、安いのは回答者の特殊事情か一時的な気まぐれによるもので無視してもよいのではないかと言うことができます。しかし、逆に、安すぎるという人が高いという人を上まわれば、無視できなくなります。当然、「安いと感じる」という人を加えれば、大勢は「安い」ということになります。安すぎるという人が上まわる価格(またはその直前値)が、下限価格の交点です。同様に、最高価格も解釈できます。 次に、理想価格です。これは、2つの条件から理解できます。一つ目は、拒否者である「高すぎて買わない」「安すぎて買わない」の合計人数が最も少ないことです。但し、合計人数が最も少ない価格といっても、元々極めて少ない人数のため、誤差もあり多少の価格幅があります。その価格幅の中央にすべきです。これが二つ目の条件です。この中央価格を求めるために、『「高すぎて買わない」と「安すぎて買わない」が拮抗する点=交点価格』が出てきます。この交点価格は、は必ずしも一つ目の条件と一致はしません。しかし、ほぼ近い価格となります。PSMの理想価格を、最も許容人数が多い価格とズレが生じるという指摘もありますが、ずれて当然で、これは、PSM分析を正しく理解しているとは言えません。但し、だからと言って、この交点が理想価格と解釈して良いかは判断がわかれる点となります。ただ、便利な点は、この理想価格は、かならず上限価格と下限価格の範囲内または境界に収まり、図形的におおむね1点となる点です。

7

図表7 理想価格の交点

最後に妥協価格です。グラフで見るとわかるように、「高い」と感じる人数と「安い」と感じる人数が拮抗する価格で、「安い」と「高い」の価格分岐点です。「ちょうど良い」価格ではありません。また、「ちょうど良い」という人が最も多い価格でもありません。あくまでも、全員で見た場合、「高い」と「安い」の評価人数が同一となった価格です。このため、市場全体の価格意識として捉えれば、高いとも安いとも言えず、中間点となる価格です。多くの場合、妥協価格は理想価格と同じか、やや高めの価格となります。

4.妥協価格からわかること

4-1. プレミアム性

理想価格に比べて、妥協価格が高い(PSMグラフ上、右に交点ができる)ほど、その製品のプレミアム性が高いと推測できます。つまり、理想価格より高い価格が受け入れられる可能性があると判断できるというものです。

8図表8 理想価格と妥協価格のレンジ

高いと感じる人の比率の増加傾向がより高価格に移行した場合、また、安いと感じる価格の減少傾向が高価格に移行した場合、その交点は右(高価格)に移行します。理想価格は買わない人という点から求められたものですが、回答者全体の漠然とした価格イメージでは、もう少し上の価格で「安い」と「高い」の分岐点がある場合です。このような場合、購入拒否者が際立って多くなければ、妥協価格を最適値としても問題がないかもしれませんし、妥協価格を「高すぎて買わない」という人の不満を解決できれば、妥協価格へと理想価格を引き上げることができるかもしれません。

9図表9 妥協価格の詳細

4-2.価格支持率と相場感の強さ

グラフ上での妥協価格の上下の位置の低さ(Y座標値の小ささ)は、その価格を支持する人の比率を表します。上の帯グラフからわかるように、

「どちらとも言えない(ちょうど良い)」=100%-(「高いと感じる(高すぎて買えないを含む)」+「安いと感じる(安すぎて品質に不安)」)

です。

この価格の交点の上下位置が高い(Y座標の値が大きい)とは、

「高いと感じる(高すぎて買わないを含む)」+「安いと感じる(安すぎて品質に不安)」

の値が大きいことで、結果として、「どちらとも言えない(ちょうど良い)」という人が少ないことを意味します。その価格は、最も妥当感のある価格ですが、人により、意見は分かれていることを意味します。つまり、企業側から見れば、価格設定は慎重に行う必要があることを意味します。逆に、交点の上下位置が低い場合、「どちらとも言えない(ちょうど良い)」という人が多いことを意味します。つまり、その価格に多くの人が納得できることを意味します。  さらに、この交点価格の前後価格を見た時、Y値が低い位置に2つのラインがあれば、妥協価格の幅は比較的広いこと、つまり、価格に対する感度は高くないことを意味します。価格相場感が多くの人に共有されていない状態です。逆に、少なくともどちらかのラインが急上昇していると、価格に対して、敏感に反応する、つまり価格への感度が高いことを意味します。価格相場感が社会的に明確になっている傾向が強い状態です。食品や雑貨な日常購買商品で、実売価格が安定しているような場合です。 まとめると、

●妥協価格の交点が縦軸(Y軸)上で高い位置にある程 消費者の価格に対して敏感に反応する傾向が強い
●妥協価格の前後でのラインが急上昇している程

ということになります。このため、企業側は、価格決定をより慎重に行う必要があります。

5.PSM分析と価格戦略の関係について

理想価格と価格レンジが分かった段階で、どのような価格を設定するかは、判断の分かれるところです。一般的には“3つの競争戦略”に基づき、価格戦略を選択していきます。最も正攻法が、理想価格に設定するというものです。低価格訴求といった価格戦略をとるなら、受容価格帯の範囲の「安いと感じる」比率が高くなる価格で、つまり、安すぎて買わない人が多くならない範囲で、安いと感じる人が多い価格を設定すべきです。逆に、差別化戦略をとるのであれば、受容価格帯の範囲の「高いと感じる」比率が高くなる価格で、つまり、高いと感じるものの高すぎて買わない人が多くならない価格を設定すべきということになります。

10

図表10 3つの競争戦略

よく見る価格戦略として、「差別化戦略=最高価格」、「低価格戦略(コストリーダーシップ等)=最低品質保証価格」があります。しかし、こうした交点だけを見た分析結果は、ケースによっては価格訴求効果、差別化効果が高いとは言えません。

11

図表11 良くみるPSM上の価格戦略

価格訴求効果、差別化効果が高い価格をPSM分析上で見極めるには、PSMグラフに、“購入拒否しない価格率”を追加すると分かりやすくなります。それにより、限界価格を見極められるからです。具体的には、「高すぎて買わない」と「安すぎて品質に不安」のいずれでもない人数の比率を「購入拒否しない価格率」と呼び、PSM分析結果を読み取る指標に加えます。

◆購入拒否しない価格率 「高すぎて買わない価格」「安すぎて買わない価格」のどちらにも該当しない人の比率。つまり、購入拒否にならない価格。

12

図表12 購入拒否しない価格率

6.“購入拒否しない価格率”の詳細

“購入拒否しない価格率”を追加することで、実際の数値として最も支持率が高い金額とその度合い、金額幅を確認できます。また、支持率が高く低価格をアピールできる価格帯を判断することもできます。実務上は、PSMデータ・グラフを目視で確認していくこととなります。

●低価格戦略をとる場合 “購入拒否しない価格率”が大きく下がらない範囲で、かつ、「安いと感じる」比率が高くなる価格ラインを選択する。
●差別化戦略をとる場合 “購入拒否しない価格率”が一定水準以上で、「高いと感じる」人が多少多くなるプライスラインが適当とする。

13ゾーン

図表13 低価格戦略をとる場合の低価格訴求

7.価格期待値分析・価格反応値分析

価格期待値分析・価格反応値分析は、新商品プランの価格イメージに含まれる商品期待度合いを指標として取り出すことで、思い切った価格設定や商品設計を検討するための分析方法です。

7-1.価格設定に反映できる潜在的な期待の高さを明らかにする「価格期待値分析」

価格期待値とは、その商品について、何かもっと役立ちそうとか楽しそうといった期待のことです。但し、確信がある評価ではなく、試したら良い商品かもしれないという可能性の程度です。現在想定する価格より、その分高くても「違和感がない」というもので、理想価格と高いと感じ始める価格との関係を数値化したものです。価格期待値が高い商品企画やターゲット層については、その期待内容を把握し、商品設計に反映させることが重要です。 7-2.価格を低めにした場合の促進効果はどの程度あるかを明らかにする「価格反応値分析」  理想価格より価格を低めに設定しても、類似商品や代替商品の価格の値引きが常態化している場合には、価格インパクトを持ちません。つまり、手頃な価格であっても、安いとは感じられません。安いと感じる価格と理想価格の関係を数値化したものです。

7-3.基本的な分析手順

対象となる商品について、PSM分析質問以外に

●ちょうど良いと感じる価格

を聞き、次の方法で計算します。

●価格期待値(0~1の数値) 1-「ちょうど良いと感じる価格」/「高いと感じ始める価格」※期待度が非常に大きい場合は1に近づき、ほとんどない場合は0
●価格反応値(0~1の数値) 「安いと感じる価格」/「ちょうど良い価格」※わずかな価格引き下げでも安さ感がある場合は1に、価格を低くしても安さ感が感じられない場合は0に近づく

価格期待値と価格反応値の数値は、分母が異なるため直接比較することはできません。単純比較をするには、平均期待値価格や平均販促効果価格を計算します。

●平均期待値価格 「ちょうど良い価格」平均/(1-価格期待値)
●平均販促効果価格 「ちょうど良い価格」平均×価格反応値

「ちょうど良い価格」が800円で価格期待値が0.2のプランA(=1,000円)と、「ちょうど良い価格」が700円で価格期待値0.4のプランB (=1,167円)を比較した場合、期待値を除くとプランAの方が高価格ですが、平均期待値価格はプランBの方が上まわることになります。

※「ちょうど良い価格」の平均値は、ごく一部の高価格回答者により高めとなります。また、金額と指数を組み合わせた価格も高めとなります。このため、相対比較のみに使用します。

8.PSMの限界

PSMからは4つの価格が決定論的に求まりますが、その価格から離れた価格設定をしたときに市場へどのようなインパクトがあるのか、その価格が原価の問題などにより実現不可能な時にはどう対処すればよいのか、といった疑問に対する明確な回答がありません。ないというよりも、PSMだけで解決できる問題でないといった方が正確であり、実務でPSMによる分析を行っていく上で、検討しておくべき論点でもあります。

鋭い方は、既にお気づきかと思いますがPSMを実務上で活用するためには、経済学、財務・会計の知識がないと単なる分析のための分析に終始してしまいます。

執筆者のご紹介
加藤 武

加藤 武

多摩大学大学院MBA修了。中小企業診断士。
近畿大学経営学部マーケティング論講師(2014年)。
2011年大手コンサルティングファーム退職。
2011年よりNISSHA現職。
第1回「日本マーケティング大賞」受賞等。
戦略コンサルタントとして、事業戦略立案、生活者の価値観・ライフスタイル・
行動分析などに基づくマーケティング戦略、ブランド戦略に関するコンサルテーションを行う。
ヒット商品(CM含む)は20種類以上。

関連記事

おすすめ記事

  1. emotion guide

    2016.4.22

    基礎から学べるブランディング vol.3 ブランドカラー(2)   ~商標法の改正から~

    前回は色の重要性について、その概略と代表的な基本3色の説明を述べた。
  2. 12

    2016.1.29

    PSM(Price Sensitivity Measurement)の真実

    PSM分析は、特定商品や商品カテゴリーに対する消費者の価格意識、特に、許容範囲を捉えることで、ターゲ...
  3. T_2

    2015.12.25

    ターゲットの基本知識

    物を作るにはだれが買うのかを決めなければなりません。
ページ上部へ戻る